住まいの記事

退去費用の請求、全部払わないといけないの?

住み替えと暮らし 約7分で読めます

おせっかい度 かなり、おせっかい

渡邉 拓也

精算書の金額を見て、払うべきか迷いますよね。借りた人が負担する範囲と、年数で下がる割合を書きました。

目次
  1. 原状回復って、借りた日の状態に戻すことなの?
  2. どこまでが、自分で払う分なの?
  3. 自分で付けた傷なら、全額払うの?
  4. 特約に書いてあれば、払うしかないの?
  5. 退去の立ち会いでは、何に気をつければいい?
  6. よくある質問

お客様

退去の精算書に、壁紙の張り替え代がまるごと入っていました。

引っ越しを控えたご相談で、こうしたお話を伺うことがあります。精算書の金額を見て、言われるままに払ってしまう方も少なくありません。

けれども、請求を全部払う必要があるとは限りません。その中に、本来は貸主が負担する費用が含まれていることがあるからです。国民生活センターによると、原状回復に関する相談は毎年1万3,000〜4,000件ほどです。賃貸住宅の相談の約4割を占めています。

この記事では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」を取り上げます。民法の決まりとあわせて、どこまでが借りた人の負担なのかを見ていきます。

原状回復って、借りた日の状態に戻すことなの?

担当・渡邉

いいえ、年数による古びや普通に暮らしてできた傷みは、貸主の負担です。

原状回復は、入居した日と同じ状態に戻すことだと思われがちです。ですが、ガイドラインはその考え方をはっきり否定しています。

ガイドラインでの原状回復は、借主の故意や過失、通常の使い方を超える使用で生じた傷や汚れを直すことです。善管注意義務違反によるものも含まれます。善管注意義務とは、借りた物を常識的な注意を払って使う義務のことです。

反対に、時間がたてば自然に古びていく「経年変化」と、普通に暮らしていれば生じる「通常損耗」は、貸主の負担です。こうした分の修繕費用は、毎月の家賃に含まれていると考えられているからです。

この考え方は、2020年4月施行の改正民法で条文になりました。民法621条は、通常の使用による損耗と経年変化を、借主が直す対象から除いています。また622条の2では、部屋を返したとき、未払いの家賃などを差し引いた敷金の残りを返すことが定められました。

どこまでが、自分で払う分なの?

担当・渡邉

画びょうの穴や日焼けは貸主、タバコのヤニや放っておいたカビは借主が目安です。

ガイドラインに載っている具体例のうち、よく問題になるものを表にしました。

場所 貸主の負担(経年変化・通常損耗) 借主の負担(故意・過失など)
床 家具の設置によるへこみや設置跡、日照による畳の変色やフローリングの色落ち 飲み物をこぼしたまま手入れを怠ったシミ、引っ越し作業で付けたキズ
壁・天井 画びょうやピンの穴、ポスターの跡、日照による壁紙の変色、冷蔵庫の後ろの黒ずみ タバコのヤニや臭い、重い物を掛けるために開けた深いくぎ穴やネジ穴
結露とカビ 建物の構造が原因で生じる結露 結露を放置し、貸主に知らせず拭き取りもしないで広げたカビやシミ
設備など 寿命による設備の故障、通常の掃除をしていた場合のハウスクリーニング 掃除を怠ったための台所の油汚れや水まわりのカビ、鍵の紛失

画びょうの穴は、下地のボードまで張り替える必要がない程度であれば貸主の負担とされています。

結露も、建物の構造に原因があることが多いとされています。ただし、気づいていながら貸主に知らせず、拭き取りもせずに壁を傷めた場合は、借主の負担と判断されることが多くなります。結露やカビに気づいたら、早めに管理会社へ伝えておきましょう。

自分で付けた傷なら、全額払うの?

担当・渡邉

全額とは限らず、住んだ年数に応じて借主の負担割合は下がります。

ガイドラインは、設備や内装の経過年数に応じて負担割合を下げる考え方を取っています。たとえば壁紙やカーペット、クッションフロアは、6年で価値が1円になると考えて負担割合を計算します。

国交省の参考資料では、入居時に新品だった壁紙の場合、3年で退去すると借主の負担は50%とされています。入居時に壁紙が新しくなかった場合は、その分だけ負担割合の出発点が下がります。6年を過ぎていれば、残る価値は1円とされ、借主の負担はほぼ0%です。

ただし、年数を過ぎた壁紙でも、まだ使える状態なら大切に使う義務は残ります。わざと落書きをした場合などは、消すための工事費用を負担することがあるとされています。

ほかの設備にも、目安の年数があります。流し台は5年、エアコンやガスレンジ、インターホンは6年で、便器や洗面台は15年とされています。

一方で、経過年数を考えないものもあります。畳表やふすま紙は消耗品として扱われ、フローリングは一部の補修なら年数を考慮しません。鍵をなくしたときの交換費用は、全額が借主の負担です。

直す範囲にも決まりがあります。壁紙は傷を付けた箇所を含む一面分まで、畳は原則1枚単位です。1か所の傷を理由に部屋全体の張り替え費用を求められたら、根拠を聞いてみてください。

お客様

3年住んだ部屋で、自分で汚した壁紙の張り替え代を全額と言われました。

担当・渡邉

驚きますよね。結論から言うと、全額とは限りません。入居時に新品の壁紙なら、3年で退去したときの負担は50%とされています。

お客様

半分になるんですね。見積もりのどこを見ればいいですか?

担当・渡邉

経過年数による負担割合が入っているかです。書かれていなければ、根拠を聞いてみてください。

特約に書いてあれば、払うしかないの?

担当・渡邉

何でも有効ではなく、通常損耗まで負わせるには3つの要件が要ります。

特約とは、契約書に足された個別の取り決めのことです。たとえば「退去時のクリーニング費用は借主負担」といった一文がこれにあたり、法律に反しない範囲で認められます。

そのうえでガイドラインは、通常損耗まで負わせる特約が有効とされる要件を3つ挙げています。必要性と合理的な理由があること、借主が負担を理解していること、負担する意思を示していることです。

最高裁の判例も、借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているなど、明確な合意を求めています。ただ、特約が有効かどうかは、契約の中身や個別の事情によって変わります。気になる特約があれば、契約書を手元に置いて専門の窓口に相談するのが確実です。

なお、ガイドライン自体も、使うことを強制するものではないとされています。最終的には、契約の内容や部屋の使い方で個別に判断されます。それでも、話し合いの物差しとして広く参照されています。

退去の立ち会いでは、何に気をつければいい?

担当・渡邉

精算書へのサインはその場でせず、内訳をもらって持ち帰ってから確かめます。

退去の日には、管理会社の担当者と部屋を見て回る「立ち会い」が行われることが多いです。ここで、精算書や確認書へのサインを求められる場合があります。

ところが、サインをすると内容を認めたと受け取られるおそれがあります。国民生活センターも、精算内容をよく確かめ、納得できない点は貸主側に説明を求めるよう呼びかけています。指摘された箇所は、自分のスマートフォンでも撮っておきましょう。

お客様

立ち会いで「ここにサインを」と言われたら、断れる気がしません…。

担当・渡邉

その場だと言い出しにくいですよね。納得できなければ、持ち帰って確かめて大丈夫です。

お客様

持ち帰っていいんですね。何をお願いすればいいですか?

担当・渡邉

「どの傷が、どの費用になるのか分かる内訳をいただけますか」と頼んでください。

見積もりを受け取ったら、項目ごとに次の点を確かめます。

  • 修理する場所と範囲(一面分か、部屋全体か)
  • 経過年数による負担割合が反映されているか
  • 経年変化や通常損耗の分が含まれていないか

払う前に、内訳と年数を見る。

入居の日の記録も、立ち会いで役に立ちます。退去のトラブルで多いのは、その傷がいつ付いたのか分からないという行き違いです。ガイドラインも、入居時と退去時の確認が不十分なことを、トラブルの大きな原因に挙げています。

入居した日に、床や壁、水まわりを撮っておいてください。撮った日付が残るので、入居前からあった傷だと示す材料になります。管理会社にもメールで送っておくと、記録がより確かになります。

それでも話し合いが進まないときは、消費者ホットライン「188」に電話してみてください。最寄りの市区町村や都道府県の消費生活センターなどを案内してもらえます。相談は無料で、通話料だけがかかります。

よくある質問

画びょうの穴も、退去のときに払うのですか?

下地のボードまで張り替える必要がない程度なら、貸主の負担とされています。

鍵をなくした場合は、どうなりますか?

交換費用は、住んだ年数にかかわらず全額が借主の負担です。

話し合いが進まないときは、どこに相談できますか?

消費者ホットライン「188」に電話すると、消費生活センターなどを案内してもらえます。