事業用の家賃は、住まいの家賃と何が違うの?
八木澤 竜也
見慣れない項目が並ぶ見積もりは、どこから読めばいいか迷いますよね。住まいと違うお金の決まりを5つ書きました。
お客様
事務所の見積もりを見たら、思っていたより毎月の支払いが多くて戸惑っています。
店舗や事務所を探す方から、こうしたお話を伺うことがあります。
住まいを借りたことがあれば、敷金・礼金・仲介手数料にはなじみがあると思います。ところが店舗や事務所では、同じ言葉でも中身が違ったり、見慣れない項目が並んだりします。
この記事では、事業用の家賃が住まいとどう違うのかを、消費税・保証金・権利金・仲介手数料の順に見ていきます。見積もりの比べ方と、税金の扱いで迷ったときの確認先も書きました。
店舗や事務所の賃料にも、消費税がかかるの?
担当・八木澤
住まいの家賃と違って非課税の対象に入らないので、標準の10%がかかります。
住まいの家賃に消費税がかからないのは、消費税法で「非課税(税をかけない取引)」とされているからです。対象は人が住むための建物の貸し付けで、契約で住まいに使うと分かる1か月以上のものです。
店舗や事務所の賃料はこの非課税の対象に入っていないので、標準の10%の消費税がかかります。たとえば、カフェの店舗を税抜き月20万円で借りるとします。消費税は2万円なので毎月払うのは22万円になり、税のぶんだけで1年に24万円です。
共益費(廊下や階段など共用部分の維持にあてるお金)も、住まいとは扱いが違います。住まいでは共益費は家賃に含まれ、非課税です。一方で店舗や事務所では、国税庁の通達で共益費も貸し付けの対価に含まれるとされ、消費税がかかります。
事業では、払った消費税を自分が納める消費税から差し引ける「仕入税額控除」という仕組みがあり、賃借もその対象です。ただし使えるかどうかは条件しだいなので、開業前の方は税務署か税理士に一度聞いておくと安心です。
お客様
住まいと同じで、店舗の家賃にも消費税はかからないつもりで予算を組んでいました。
担当・八木澤
そう思いますよね。店舗や事務所の賃料には、10%かかるんです。
お客様
共益費のほうは大丈夫ですか?
担当・八木澤
共益費にもかかると考えてください。見積もりは、まず税込みかどうかを確かめましょう。
預けた保証金は、全部戻ってくるの?
担当・八木澤
「償却」の取り決めがあれば、その額は傷みの有無にかかわらず戻りません。
事業用では、敷金のかわりに「保証金」を預けることがあり、住まいの敷金より額が大きいこともあります。家賃の未払いなどに備えて預けるお金なら、名目を問わず、民法上は敷金にあたります。
そのため物件を返したときに未払い分などを差し引いた残りが返る点は住まいと同じです。ただし事業用では、「償却」という取り決めが付いていることがあります。退去のときなどに、傷みの有無にかかわらず決まった額を差し引く決まりで、「敷引き」とも呼ばれます。
たとえば、美容室の物件で保証金を120万円預け、償却が24万円と決まっていたとします。この24万円は最初から戻らないお金で、内装を元に戻す費用なども引かれると、戻る額はもっと少なくなります。数字は仮のもので、償却の額や差し引く時期は契約によって違います。
償却が高すぎるときの扱いも、住まいとは別です。住まいでは、敷引きの額が高すぎると、消費者契約法で無効になる場合があると最高裁が示しています。ただ、この法律が守るのは「事業のためではなく契約する個人」です。そのため店舗や事務所を事業のために借りる人は、個人でもこの保護の対象になりません。
また、償却で戻らない部分は、消費税の上では賃貸の対価として扱われ、消費税の対象になります。国税庁の通達がそう定めているので、契約書では償却の額が税込みか税抜きかも見ておきましょう。
権利金と礼金は、何が違うの?
担当・八木澤
名前は違っても、どちらも退去したときに戻らないお金です。
事業用の物件では、礼金のほかに「権利金」が出てくることがあります。権利金は、その場所を借りる権利を得るために払うお金です。国の告示(国が定めた基準を知らせる文書)では、権利の設定の対価として払われ、返還されないお金とされています。
建設省(いまの国交省)の通知でも、権利金や礼金は、契約が終わっても返されないお金として扱われています。小さな事務所の見積もりに権利金30万円とあれば、退去しても戻らないと考えてください。なお、返還しない権利金は、国税庁の通達で消費税の対象とされています。
お客様
見積もりに保証金と権利金が並んでいて、どれが戻るお金か分かりません。
担当・八木澤
名前だけだと見分けにくいですよね。退去のときに戻るかどうかで分けて見るのが確実です。
お客様
見積もりをくれた会社に、そのまま聞いてもいいんですか?
担当・八木澤
もちろんです。項目ごとに「このお金は、退去のときに戻りますか」と聞いてください。
仲介手数料は、住まいと同じ計算でいいの?
担当・八木澤
合計の上限は同じでも、住まいの「0.55か月分」の決まりは事業用にはありません。
仲介手数料の上限は、国交省の告示で決まっています。貸主と借主の双方から受け取る合計は賃料1か月分の1.1倍以内で、この枠は住まいでも事業用でも変わりません。
ただし住まいでは、借主など一方から受け取れる額は、承諾がなければ0.55か月分以内とされています。この決まりは住まいの建物だけが対象なので、事業用では合計1.1か月分以内の範囲で、貸主と借主にどう分けるかが決まります。
たとえば税抜き月20万円の事務所なら、合計の上限は22万円で、借主がその全額を払う形もあり得ます。1.1倍は消費税込みの数字で、もとにする賃料は税抜きです。
さらに事業用には、権利金がある場合の特例もあります。権利金を受け渡す賃貸では、権利金を「売買の代金」とみなして手数料を計算してもよい、という決まりです。住まいの建物は、この特例の対象外です。
たとえば権利金が税抜き200万円なら、売買の計算で一方から受け取れる上限は税込み11万円です。この計算は貸主と借主のそれぞれに当てはまり、1.1か月分の枠とは別の計算になります。どの計算で出したのかは、担当者に確かめておきましょう。
見積もりは、どう見比べればいい?
担当・八木澤
税抜きと税込みをそろえ、退去のときに戻るお金と戻らないお金に分けて比べます。
税込みの価格を示す「総額表示」の義務は、消費者に向けた価格の表示が対象とされています。そのため事業用の見積もりや募集図面では、税抜きと税込みが混ざって書かれていることがあります。
たとえば、A物件は賃料20万円(税抜き)、B物件は21万円(税込み)と書かれていたとします。そろえるとAは税込み22万円になるので、Bのほうが安いと分かります。比べるときは、次の点を1行ずつ確かめてください。
- 賃料・共益費・管理費が、税抜きか税込みか
- 保証金の額と、償却の額やいつ差し引かれるか
- 権利金・礼金があるかと、その額が税込みか税抜きか
- 仲介手数料の額と、どの計算で出したのか
- 退去時に戻るお金と、戻らないお金の合計
ここまでの違いを住まいと並べました。細かな扱いは契約によって違うので、大まかな見取り図として使ってください。
| 項目 | 住まい | 店舗・事務所 |
|---|---|---|
| 賃料の消費税 | かからない | かかる(10%) |
| 共益費の消費税 | 共用部分の分はかからない | かかる |
| 預けるお金 | 敷金。残りが返る | 保証金・敷金。償却があることも |
| 敷引き・償却 | 高すぎれば無効の場合あり | 消費者契約法の保護はない |
| 戻らないお金 | 礼金など | 礼金・権利金など |
| 仲介手数料 | 一方から0.55か月以内が原則 | 合計1.1か月以内で配分 |
| 権利金の特例 | なし | 売買とみなす計算もできる |
違いの多くは「消費税」と「法律による守りの範囲」に集まっています。
最後に、契約の前には宅地建物取引士(不動産取引の国家資格を持つ人)による重要事項説明があります。賃料以外にやりとりするお金の額と目的は、この説明で示すことが法律で決まっています。見積もりと違う点があれば、その場で質問してください。税金の扱いで迷ったときは、税務署か税理士に聞くのが確実です。
税込みか、戻るお金か。見積もりはそこから。
よくある質問
店舗の共益費にも、消費税はかかりますか?
国税庁の通達で共益費も貸し付けの対価に含まれるとされ、賃料と同じく消費税がかかります。
保証金は、退去のときに全額戻りますか?
償却の取り決めがあれば、その額は戻りません。内装を元に戻す費用なども差し引かれることがあります。
仲介手数料を、借主が1か月分払うこともありますか?
事業用では、合計1.1か月分以内で貸主と借主への分け方が決まるので、借主が全額を払う形もあり得ます。



