店舗・事務所の記事

事業用の契約書は、どこから読めばいい?

費用と契約 約7分で読めます

おせっかい度 かなり、おせっかい

伊藤 眞子

厚い契約書を前にすると、どこから読めばいいか迷いますよね。先に読んでほしい条文と、署名の前に聞くことを書きました。

目次
  1. 契約書は、まずどこを読めばいいの?
  2. 内装にかけたお金は、期間のうちに取り戻せる?
  3. お店を途中でやめるときは、どうなるの?
  4. 借りている途中で、賃料は変わることがあるの?
  5. 個人で開くお店でも、消費者として守られるの?
  6. よくある質問

お客様

美容室の契約書が届いたんですが、厚すぎてどこから読めばいいのか…。

お店や事務所の契約のご相談で、こうしたお話を伺うことがあります。店舗の契約書は住まいより厚くなりがちで、どこから読むか分からないまま署名する方も少なくありません。

お店を長く続けたい方ほど、先に読んでほしいのは「契約期間」と「解約」の条文です。何年借りられるか、更新はあるか、途中でやめるとどうなるか。この3つが、内装にかけたお金を回収できるかに直結するからです。

この記事では、最初に読む条文と住まいとの違い、署名の前に聞くことをまとめました。

契約書は、まずどこを読めばいいの?

担当・伊藤

その契約が「普通借家」か「定期借家」かを、最初に確かめてください。

建物を借りる契約には、大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」があり、更新の扱いが違います。普通借家は、期間が終わっても更新して借り続けるのが基本です。住まいの賃貸で多いのは、こちらの形です。

普通借家で貸主が更新を断るには、「正当な事由」が要ります(借地借家法28条)。貸主がその建物を使う必要性などを踏まえた、出て行ってもらうだけの理由のことです。そのため、美容室を開いた場合も、貸主の都合だけで更新を断られる心配は小さくなります。

一方の定期借家は、更新が無い契約です(借地借家法38条)。期間が終われば終わり、続けるには新しく結び直します。再契約に応じるかは貸主しだいで、法律の約束はありません。

期間が1年以上の定期借家なら、貸主は終わる1年前から6か月前までに、借主へ終了を知らせる決まりです。これは終わりの合図で、再契約の約束ではありません。

比べる点 普通借家 定期借家
期間が終わったとき 更新して続けるのが基本 契約は終わる
貸主が続けたくない場合 正当な事由が要る 理由が無くても終わる
続けたい場合 更新の手続き 貸主との再契約しだい

どちらの契約かは、契約書の最初のほうか重要事項説明書に書かれています。重要事項説明書は、契約の前に宅地建物取引士が読み上げて説明する書面です。募集図面に小さく「定期借家」とだけあることもあり、申し込みの前に聞くと安心です。

内装にかけたお金は、期間のうちに取り戻せる?

担当・伊藤

内装費を取り戻す年数と契約期間を、並べて見比べておきます。

というのも、お店や事務所では借りたあとに内装工事をすることがほとんどだからです。カフェなら客席や照明、美容室ならシャンプー台や鏡まわりにかけたお金を、売上から少しずつ取り戻します。

たとえば、内装費を5年で取り戻す計画なのに、契約が3年の定期借家だとします。再契約できなければ、取り戻す前に明け渡すことになりかねません。

ただ、定期借家が悪いわけではありません。期間が決まっている分、試しの出店や期間限定のお店には合っています。

資金計画では、内装費を何年で取り戻すかを先に出してください。その年数が契約期間より長いなら、普通借家を探すか、再契約の見込みを担当者に聞いておきます。居抜きで設備を引き継ぐ場合も、その代金の回収期間を考えます。

お客様

気に入った物件が3年の定期借家なんです。内装にかなりかけるので、迷っていて…。

担当・伊藤

迷いますよね。まず、内装費を何年で取り戻すかを出してみましょう。

お客様

3年より長くかかりそうなら、あきらめたほうがいいですか?

担当・伊藤

その前に、これまで再契約した例があるかを聞いてみてください。

お店を途中でやめるときは、どうなるの?

担当・伊藤

契約書に「中途解約」の条文があるかで決まり、住まいの決まりは使えません。

事業用の契約で途中解約できるかは、契約書の「中途解約」の条文しだいです。条文が無いと、途中でやめられなかったり、残りの期間の賃料を求められたりすることがあります。

一方、住まいの定期借家には、途中解約の決まりが法律にあります。床面積200㎡未満の住まいなら、転勤や療養、親族の介護などやむを得ない事情で解約を申し入れられます。申し入れから1か月で契約が終わります。

ただ、これは「居住の用に供する建物」、つまり住まいの契約に限られます(借地借家法38条7項)。店舗や事務所の定期借家には当てはまらず、カフェの売上が伸びずに閉店する場合も使えません。

お客様

売上が伸びなかったら、途中でやめられるのか不安で…。

担当・伊藤

始める前に考えておくのは、いいことですね。

お客様

中途解約の条文があれば、ひとまず安心ですか?

担当・伊藤

何か月前に伝えるかと、違約金の額まで見てください。

条文がある場合も、2点を確かめてください。1つ目は「解約予告の期間」で、何か月前までに伝えればやめられるかの決まりです。住まいより長いこともあり、何か月かは契約しだいです。前の部屋と同じだと思い込まず、今回の数字を見てください。

2つ目は「違約金」で、約束の期間より早くやめたときに払う決まったお金です。「契約から2年以内の解約は賃料の何か月分」のように書かれます。どちらもあとから変えにくいので、署名の前に金額まで確かめておきます。

借りている途中で、賃料は変わることがあるの?

担当・伊藤

普通借家は増減を求められ、定期借家は改定の特約があればそのとおりです。

普通借家では、税金や物価、周りの家賃と比べて賃料が見合わなくなることがあります。そのときは、貸主と借主のどちらからも増額や減額を求められます(借地借家法32条)。これを「賃料増減請求」と呼びます。

ただし、一定の期間は賃料を上げないという特約があれば、その定めに従います。特約とは、その契約だけに書き足した個別の約束です。「3年間は賃料を据え置く」とあれば、その間は値上げを求められにくくなります。

定期借家では、賃料の改定の特約があると、賃料増減請求の決まりは使えません(借地借家法38条9項)。「2年ごとに◯%上げる」とあれば、原則その条文どおりに変わります。売上の計画を立てる前に、賃料がいつ、どう変わる契約かを読んでおいてください。

個人で開くお店でも、消費者として守られるの?

担当・伊藤

事業のための契約なら、個人でも消費者契約法の「消費者」には当たりません。

消費者契約法は、事業者と消費者の間の情報や交渉力の差を埋める法律です。住まいの契約では、この法律が借りる人を守る場面があります。解約に伴う違約金のうち、平均的な損害を超える部分を無効にする決まり(9条)もその1つです。

ところがこの法律の「消費者」は、事業として、または事業のために契約する人を除いた個人です(消費者契約法2条)。消費者庁の解説でも、個人事業主が事業のために契約すれば「事業者」として扱うとしています。個人でカフェを開くために店舗を借りる場合も、消費者には当たりません。

消費者庁の解説には、続ける意図をもって始めたことなら、最初の行為から事業に当たるとも書かれています。開業前でまだ売上が無くても、お店のための契約なら同じ扱いです。

そのため、事業用の契約では、書かれた内容がそのまま重く効きます。違約金や解約予告の期間も、署名した時点で受け入れたものとして扱われやすくなります。納得できない条文は、署名の前に担当者を通じて貸主に相談するのがいちばん確実です。

契約の内容は、契約書と重要事項説明書のどちらにも書かれています。説明の場では、次のように聞いてみてください。

  • 「この契約は普通借家ですか、定期借家ですか」
  • 「定期借家なら、これまで再契約した例はありますか」
  • 「途中で解約するときに、何か月前に、どの方法で伝えるのかを教えてください」
  • 「中途解約の違約金は、いつまでの解約で、いくらかかりますか」
  • 「賃料の改定について書かれた条文を、指で示してください」

答えはメールなど記録が残る形でもらうと、あとで食い違いが起きにくくなります。条文の意味が分からなければ、その場で仲介会社の担当者に言い換えてもらうのが近道です。判断に迷う条文は署名を急がず、弁護士など法律の専門家に見てもらう方法もあります。

お店の契約は、内装や設備にお金をかけた分だけ、やり直しがききにくい約束です。

数ページの条文が、何年もの土台になる。

よくある質問

定期借家でも、再契約はできますか?

応じるかどうかは貸主しだいで、法律の約束はありません。

店舗でも、転勤や療養なら途中で解約できますか?

その決まりは住まいの契約だけです。店舗は、契約書の中途解約の条文しだいです。

開業前の個人事業主でも、消費者として扱われますか?

お店のための契約なら、開業前でも「事業者」として扱われます。