賃貸の契約書は、まずどこから読めばいい?
伊藤 眞子
分厚い契約書を前にすると、どこから読むか迷いますよね。先に開いてほしい特約の欄の読み方を書きました。
目次
お客様
契約書が分厚くて、どこから読めばいいのか分かりません。
契約のご案内をしていると、こうした声をよく伺います。説明を聞きながら、言われた場所に署名と押印をして終わり、という流れになりがちです。
その書類のなかで、いちばん先に読んでほしいのが「特約」の欄です。退去するときのお金や、途中で引っ越すときの違約金などが、ここに書かれていることが多いからです。
この記事では、契約の前の「重要事項説明」から順に、特約の読み方と署名の前に確かめたいことをお伝えします。
契約の前には、どんな説明を受けるの?
担当・伊藤
宅建士から、重要事項説明書を使った「重要事項説明」を受けます。
部屋を借りる契約が成立する前には、宅地建物取引士が「重要事項説明」をすることになっています。宅地建物取引業法35条で定められた手続きです。宅地建物取引士は不動産取引の専門資格を持つ人のことで、略して宅建士と呼ばれます。
説明のときには、宅建士が宅建士証を見せることになっています。説明に使う重要事項説明書には、物件の設備や契約の条件のほか、更新や解約に関する決まりも書かれています。
この説明は、テレビ会議などを使ったオンラインでも受けられます。国土交通省の資料によると、賃貸ではこの「IT重説」が2017年10月から本格的に始まりました。2022年5月からは、重要事項説明書や契約の内容を記した書面を、電子データで受け取れるようにもなりました。
電子データで受け取るには、借りる側の承諾が必要です。オンラインの場合でも、説明の前に重要事項説明書が手元に届いていることが条件とされています。画面の映像や音声が途切れたら、説明はいったん止めて、直ってから再開する決まりです。
お客様
仕事が立て込んでいて、重要事項説明を受けに行く時間が取れないんです…。
担当・伊藤
平日は難しいですよね。オンラインで受けることもできますよ。
お客様
よかった。何か準備しておくことはありますか?
担当・伊藤
説明の前に、重要事項説明書が手元に届いているかを確かめておいてください。
特約には、どんなことが書かれているの?
担当・伊藤
その部屋だけの追加の決まりで、違約金や更新料、退去時の費用などが入ります。
賃貸借契約書の多くは、ひな形になった本文と、その物件ごとに書き足した「特約事項」でできています。特約とは、一般的な決まりに上乗せしたり、内容を変えたりするための個別の約束のことです。
本文はどの物件でも似ていますが、特約は物件ごとに違います。本文とは別の紙に、まとめて書かれていることもあります。同じ管理会社の物件でも、大家さんによって中身が変わることもあります。読む時間が限られているなら、本文より先に特約の欄を開いてください。
よく見かける特約と、確かめたい点を表にしました。右側の点が書かれていなければ、その場で担当者に聞いてください。
| 特約の種類 | 確かめること |
|---|---|
| 短期解約違約金 | 何か月以内の解約で、いくら払うのか |
| 更新料 | 更新のたびに払うのか、金額はいくらか |
| 原状回復・クリーニング | 退去時に借りる人が払う範囲と金額 |
| ペット・楽器 | 飼える動物の種類や数、演奏できる時間 |
| 解約予告期間 | 何か月前までに、どの方法で伝えるのか |
更新料や解約予告の期間は、地域や契約によって扱いが違います。更新料が無い契約もあれば、解約の連絡を1か月より前に求める契約もあります。前に住んでいた部屋と同じだろうと思い込まず、今回の契約書の数字を見てください。
ペットや楽器の決まりは、「使用細則」など別の書類に書かれていることもあります。飼う予定のペットや弾く楽器があるなら、どの書類のどこに書かれているかまで、担当者に指で示してもらうと確実です。
お客様
前の部屋は1か月前に伝えれば解約できたので、今回も同じだと思っていました。
担当・伊藤
そう思いますよね。ただ、解約の連絡を1か月より前に求める契約もあるんです。
お客様
聞いておいてよかったです。どこを見ればいいですか?
担当・伊藤
特約の「解約予告期間」です。何か月前までに、どの方法で伝えるのかを見てください。
書いてある特約には、必ず従わないといけないの?
担当・伊藤
書いてあれば何でも有効とは限らず、ガイドラインは3つの要件を挙げています。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、特約についての記述があります。法律の強い決まりに反しない限り、特約を設けることは認められるという内容です。
そのうえで国土交通省のガイドラインは、借りる人に特別な負担を課す特約について、3つの要件を挙げています。1つ目は、特約が必要で、暴利的でないなど客観的で合理的な理由があることです。2つ目は、借りる人が通常を超える負担を負うと分かっていること。3つ目は、その負担を受け入れる意思を示していることです。
たとえば、退去時のクリーニング費用を借主負担とする特約については、ガイドラインのQ&Aが判断のポイントを示しています。負担する範囲が示されているか、通常の汚れの分まで負担する趣旨が書かれているか、費用として妥当か、という点です。金額が書かれていれば、あとで揉めにくくなります。
更新料については、最高裁が平成23年7月15日に判断を示しています。契約書に一義的かつ具体的に書かれた更新料の条項は、無効とはならないという判断です。ただし、高額すぎるなどの特別な事情がある場合は別だとしています。裏返せば、契約書にはっきり書かれていることが前提です。
消費者契約法には、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする決まり(10条)があります。契約の解除に伴う違約金のうち、平均的な損害を超える部分を無効とする決まり(9条)もあります。ただ、ある特約がこれに当たるかどうかは、個別の事情で判断されます。気になる特約は、署名の前に理由を聞いておくのが近道です。
「定期借家」と書いてあったら、何が違うの?
担当・伊藤
普通借家は更新が基本で、定期借家は期間が終われば契約も終わります。
特約と並んで必ず見てほしいのが、契約の種類です。賃貸の契約には、大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。
定期借家は、借地借家法38条で定められた、更新のない契約です。住み続けたい場合は大家さんと新しく契約を結び直すことになり、再契約できるかどうかは話し合いしだいです。
定期借家にするときは、大家さんは契約の前に「更新がなく、期間の満了で終わる」ことを書面で説明しなければなりません。この説明が無かった場合、更新しないという定めは無効になると法律に書かれています。説明書面は、借りる人の承諾があれば電子データで受け取ることもできます。
長く住むつもりの方にとって、契約の種類は家賃と同じくらい暮らしに関わる条件です。募集図面に小さく「定期借家」と書かれているだけのこともあるので、申し込みの段階で聞いておくと安心です。
署名の前に、何を聞いておけばいい?
担当・伊藤
特約の中身と退去時の費用の見込みを聞き、答えは記録が残る形でもらいます。
重要事項説明の場で疑問を口にするのは、失礼なことではありません。分からないまま署名するより、その場で聞くほうが、借りる人にも貸す人にも良い結果になります。次のような聞き方を用意しておくと、言い出しやすくなります。
- 「特約の欄を、順番に読み上げてもらえますか」
- 「退去のときに私が払う費用の見込みを教えてください」
- 「この違約金の金額は、どういう考え方で決めたものですか」
- 「この契約が普通借家か定期借家か、確認させてください」
金額の見込みが特約に書かれていないなら、メールなど記録が残る形でもらっておくと安心です。口頭の説明は、日がたつと双方の記憶が食い違うことがあるためです。消費者契約法には、事業者は解除に伴う違約金の算定の根拠を、求められたら説明するよう努めるという決まりもあります。
分からないまま、署名しない。
契約書は、住み始めてからは開く機会が減る書類です。だからこそ、署名の前の数十分が、退去するときの安心につながります。
よくある質問
特約は、契約書のどこに書かれていますか?
「特約事項」の欄に書かれています。本文とは別の紙に、まとめて書かれていることもあります。
重要事項説明は、オンラインでも受けられますか?
受けられます。説明の前に、重要事項説明書が手元に届いていることが条件です。
定期借家の部屋に、期間のあとも住み続けられますか?
大家さんと新しく契約を結び直すことになり、再契約できるかは話し合いしだいです。



