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店舗の原状回復は、どこまで元に戻せばいい?

居抜きと退去 約7分で読めます

おせっかい度 かなり、おせっかい

八木澤 竜也

お店を閉めるときの費用は、借りるときには想像しにくいですよね。僕が契約の前に確かめてほしいことを書きました。

目次
  1. 住まいのガイドラインは、店舗にも当てはまるの?
  2. 契約書の特約は、書いてあるとおりに効くの?
  3. 「スケルトン返し」は、借りた日の状態に戻すこと?
  4. 工事の業者や日程も、契約で決まっているの?
  5. 退去で困らないように、契約の前に何をしておけばいい?
  6. よくある質問

お客様

居抜きで借りたカフェを閉めるのに、前のお店の内装まで撤去してと言われました。

お店を閉めるご相談で、こうしたお話を伺うことがあります。

住まいの退去なら、壁紙の日焼けや家具の跡は貸主の負担だと聞いたことがあるかもしれません。国土交通省のガイドラインに沿った考え方で、退去費用を確かめるときの物差しになっています。ところが店舗や事務所では、この物差しがそのままでは使えません。

店舗でどこまで戻すかは、契約書の書き方で決まります。この記事では、住まいとの違いと、契約の前に確かめて残しておくことをまとめました。

住まいのガイドラインは、店舗にも当てはまるの?

担当・八木澤

住宅の退去を前提に作られたもので、店舗や事務所にそのまま当てはまるとは限りません。

国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、冒頭で位置づけを説明しています。取り上げているのは民間賃貸住宅の賃貸借契約で、作られたきっかけも住宅の退去をめぐるトラブルです。

普通に使っていて生じる傷みを、ガイドラインでは「通常損耗」と呼びます。住まいでは、家賃に含まれているとして貸主の負担になります。ただし、その表や年数の目安は住宅の暮らし方を前提にしています。

たとえばラーメン店の厨房の油汚れや美容室のシャンプー台まわりの水の跡は、住まいの台所や洗面所とは使い方の強さが違います。住まいの「普通の使い方」は当てはめにくいのです。

東京都の条例(東京ルール)も同じです。原状回復の考え方を契約前に書面で説明するよう定めていますが、事業用は対象から外れています。

契約書の特約は、書いてあるとおりに効くの?

担当・八木澤

店舗や事務所では、範囲が具体的に書かれた特約は、書かれたとおりに扱われやすくなります。

まず、2020年4月に施行された改正民法で、原状回復のルールが条文になりました。借主は、借りたあとに付けた傷を直して返します。ただし、通常損耗と経年変化(時間がたって自然に古びること)は除かれます(民法621条)。

この条文は、店舗や事務所の賃貸借にも当てはまります。一方で「通常損耗も借主が直す」と書く特約(個別に付け足す取り決め)も、法律に反しない範囲で認められます。ガイドラインも、特約を設けること自体は認めています。

最高裁は住まいの事案で、この特約に条件を付けました。借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているなど、はっきりした合意が要るという判断です。範囲があいまいな特約は、成立していないとされました。

住まいには、消費者契約法という守りもあります。消費者に一方的に不利な条項を無効にできる法律です。ただ、事業のために契約する人は、ここでいう消費者に含まれません。個人でカフェを開く場合も、守りの外になる可能性が高いのです。

自分の負担は、ガイドラインではなく契約書の文言で決まると思って読んでください。住まいとの違いを表にまとめます。

比べるところ 住まいの賃貸 店舗・事務所の賃貸
国交省のガイドライン 民間賃貸住宅を前提に作られている そのまま当てはまるとは限らない
東京都の条例(東京ルール) 契約前の書面での説明がある 事業用は対象外
消費者契約法 個人が借りるなら当てはまる 事業のための契約は当てはまらない
通常損耗の扱い 原則は貸主の負担 特約で借主の負担になっていることがある
困ったときの相談先 消費生活センター(188) 対象外になりうる。弁護士会などへ

お客様

契約書に「通常損耗も借主の負担」とあって、サインしていいのか迷っています。

担当・八木澤

引っかかりますよね。事業のための契約だと、書かれたとおりに扱われやすいんです。

お客様

そうなんですね…。今のうちに何をすればいいですか?

担当・八木澤

負担になる範囲を聞いて、その答えを契約書に具体的に書き足してもらってください。

「スケルトン返し」は、借りた日の状態に戻すこと?

担当・八木澤

借りた日の状態とは限らず、居抜きなら前のお店の内装まで撤去を求められることがあります。

店舗の契約書でよく見るのが「スケルトン返し」です。スケルトンとは、内装や設備を取り払い、コンクリートの床や壁、天井がむき出しになった状態です。退去のときにその状態まで戻して返す、という取り決めです。

たとえば、前のお店の内装が残ったまま居抜きで借りたとします。契約がスケルトン返しなら、自分が付けていない内装まで撤去を求められることがあります。

逆に、借りた日の状態に戻すと書かれた契約もあります。この場合に困るのは、借りた日の状態を誰も正確に覚えていないことです。ガイドラインも、住まいのトラブルの大きな原因に入居時と退去時の確認不足を挙げています。

店舗は壁や床を自分で作り込む分、この行き違いが大きくなります。照明の位置や間仕切りの壁、床の仕上げなど、何がもともとあったかを示せる記録が退去の費用を左右します。

工事の業者や日程も、契約で決まっているの?

担当・八木澤

貸主が業者を指定する契約や、解約予告の期間内に工事を終える契約があります。

契約書に、貸主が指定した業者が工事をすると書かれている場合があります。借主は費用を払う側なのに業者を選べず、ほかの見積もりと比べて決めることもできません。

見落としやすいのが、工事にかかる期間です。解約予告とは、契約を終える何か月前までに貸主へ伝えるかという決まりです。工事を終えてから明け渡す契約なら、工事はこの期間の中で終えなければなりません。

予告の期間は契約によって違うので、契約書で確かめてください。美容室の内装を解体する工事が延びると、明け渡しが遅れた分の賃料に当たるお金を求められることがあります。

お客様

原状回復の工事は、貸主さんの指定業者でと書いてありました。言われた金額を払うしかないんですか?

担当・八木澤

選べないと不安ですよね。店舗では、そういう決まりの契約もあるんです。

お客様

せめて、中身は知りたいです。

担当・八木澤

内訳の分かる見積もりを退去のときに出してもらえるか、契約の前に聞いておきましょう。

退去で困らないように、契約の前に何をしておけばいい?

担当・八木澤

引き渡しの日の写真と図面を残し、返す状態と相談先を契約の前に確かめておきます。

準備のほとんどは、契約の前と入居した日にできます。引き渡しを受けた日に、床、壁、天井、設備をすべて写真に撮ってください。日付が残るので、もともとあったものを示す材料になります。

図面ももらっておきましょう。入居時の平面図に、既にある設備や傷の位置を書き込んでおくと確実です。ガイドラインも住まいについて、平面図への書き込みや写真を使う確認をすすめています。

「原状に復する」の一言では、人によって思い浮かべる状態が違います。仲介会社や管理会社に次のことを聞いて、答えを契約書に書き足してもらってください。

  • 返すときの状態は、スケルトンか、借りた日の状態か
  • 前の借主が残した内装や設備も、撤去の対象に入るか
  • 通常損耗や経年変化の分まで、借主の負担になるか
  • 工事の業者は指定か、自分で選べるか
  • 工事は解約予告の期間の中で行う必要があるか

口頭の答えは、担当者が替わると確かめようがありません。メールで返事をもらうだけでも記録として残せます。

相談先も、住まいとは違います。住まいの退去なら、消費者ホットライン「188」から消費生活センターにつながります。ただ、個人事業主を含む事業者の相談は対象外だと案内する自治体もあります。

中小企業向けには、日本弁護士連合会と全国の弁護士会の「ひまわりほっとダイヤル」が使えます。電話番号は0570-001-240で、一部の地域を除き初回の相談30分は無料です。地域の弁護士会の法律相談センターでも相談できます。

相談には、契約書と入居時の写真と図面、貸主からの見積もりを持っていくと話が早く進みます。退去が決まってからではなく、サインする前に相談するのがいちばん効きます。条文は数行でも、返すときの状態と工事の条件が詰まっています。

閉める日の負担は、借りる日に決まる。

よくある質問

居抜きで借りたお店でも、スケルトンで返すことになりますか?

スケルトン返しの契約なら、前のお店が残した内装まで撤去を求められることがあります。

原状回復の工事を、自分で選んだ業者に頼めますか?

貸主が指定した業者が工事をすると契約書にあれば、選べません。契約の前に聞いておきましょう。

店舗の退去のことは、消費生活センターに相談できますか?

事業者の相談は対象外だと案内する自治体もあります。弁護士会の窓口も使えます。