お店を居抜きで譲りたいとき、何から始めればいい?
伊藤 眞子
閉店を決めたあとは、考えることが多くて落ち着かないですよね。居抜きで譲るときの順番を、貸主への相談から書きました。
目次
お客様
閉店を決めました。まだ新しい内装を壊して返すのは、もったいなくて…。
閉店や移転のご相談で、こうしたお話を伺うことがあります。内装や厨房機器を残して次の人に引き継ぐことを、「居抜き(いぬき)」と呼びます。元に戻す工事の費用がかからず、設備の代金も受け取れるかもしれません。
残した設備や内装を次の借り手に売ることは「造作譲渡(ぞうさくじょうと)」です。ただ、譲る側が自分だけで決められることは、思うより少ないものです。
この記事では譲る側に立って、最初に貸主へ聞くことから、次の借り手が見つからなかったときの備えまでをまとめます。
次の人に、このまま店を引き継いでもらえるの?
担当・伊藤
借主だけでは決められないので、次の借り手を探す前に貸主の承諾を確かめます。
借りている店を次の人に使わせる権限は、借主にはありません。民法では、貸主の承諾がなければ、借りる権利を人に譲ったり又貸ししたりできないと決まっています(民法612条)。承諾なしに次の人を入れると、貸主は契約を解除できるとも定められています。
そのため実際は、今の契約を解約し、次の借り手が貸主と新しく契約を結ぶ形がよく取られます。家賃や契約期間は貸主と次の借り手で決め直し、あなたが関われるのは設備を売る話までです。
お客様
カフェの常連さんが「このまま店を続けたい」と言ってくれて。鍵を渡せば済むと思っていました。
担当・伊藤
うれしいですよね。ただ、話はいつも貸主さんの了解から始まるんです。
お客様
最初に、どう聞けばいいですか?
担当・伊藤
管理会社に「退去にあたって、内装と設備を残したまま次の方に引き継ぐことはできますか」と聞いてみてください。
返事は、メールなど記録に残る形でもらっておくと食い違いが起きにくくなります。
元に戻して返す約束でも、居抜きにできるの?
担当・伊藤
契約書の「原状回復」「明け渡し」の項目しだいなので、まず読み返します。
そもそも借りた物件は、出ていくときに傷めた部分を元に戻して返すのが原則です。これを「原状回復(げんじょうかいふく)」といいます。民法でも、借主が付けた損傷は、契約が終わるときに元に戻す義務があります(民法621条)。
店では、原状回復の中身が契約書で細かく決められていることがあります。たとえば「内装をすべて取り払い、床や壁がむき出しの状態で返す」という約束です。この場合、貸主が居抜きを望まなければ、内装は壊して返すことになります。
住まいの退去では、国土交通省のガイドラインが費用の分け方の目安になります。ただ、これは賃貸住宅が対象で、店舗では手元の契約書が出発点です。
契約書が分かりにくければ、管理会社に「居抜きで引き継ぐ場合、原状回復の約束はどうなりますか」と聞きます。次の借り手が見つかれば工事をしなくてよいのか、条件付きなのかで段取りが変わります。
このほか、貸主の同意を得て付けた造作を、退去時に貸主に時価で買い取るよう求める権利が法律にあります(借地借家法33条)。ただ、この権利は契約で外せるので、店舗では外されていることもあります。当てにする前に契約書で確かめてください。
譲渡の契約書には、何を書いておけばいい?
担当・伊藤
対象の一覧・引き渡しの状態・不具合の扱い・代金の4つです。
貸主の了解が取れたら、次の借り手と造作譲渡の契約を結びます。口約束だと、引き渡しの日に「あれも付いてくると思っていた」という行き違いが起きやすいので、次の4つを決めておきます。
| 決めること | 中身の例 |
|---|---|
| 対象の一覧 | 譲る内装・機器を1点ずつ。写真とメーカー名、型番も添える |
| 引き渡しの状態 | 動作するか、清掃して渡すか、いつ鍵と一緒に渡すか |
| 不具合があったとき | 引き渡し後に故障が見つかったら、どこまで対応するか |
| 代金と支払い時期 | 金額、税込か税抜か、いつまでにどう払うか |
一覧で気をつけたいのが、あなたのものではない設備です。リース中の機器はリース会社のもの、空調や給湯など貸主が付けた設備は貸主のものです。どちらも売ることはできず、リースの残りの扱いはリース会社に問い合わせます。
自分で工事した内装も、契約によっては貸主の持ち物になる決めごとがあります。カフェのカウンターや美容室のシャンプー台など、建物に固定したものは、一覧に入れる前に管理会社に確かめます。
不具合については、民法の決まりがあります。売った物が約束と違っていれば、買った側は修理や代金の減額などを求められます(民法562条ほか)。「今の状態のまま渡す」と決めることもできますが、知っていた不具合を黙っていた場合は責任を免れられません(民法572条)。
お客様
製氷機の調子が少し悪いんです。言わずに渡しても、いいですよね…。
担当・伊藤
迷いますよね。ただ、知っていた不具合を黙っていると、責任を免れられないんです。
お客様
じゃあ、どう伝えればいいですか?
担当・伊藤
一覧の備考に、調子が悪いことを書いておきましょう。
ときどき止まる換気扇なども、一覧の備考に書いて伝えておきます。もう一つ、契約書には「貸主の承諾が得られなければ、この譲渡はなかったことにする」と入れておきましょう。そうすれば、話が途中で止まっても困りません。
造作の代金には、税金がかかるの?
担当・伊藤
消費税や所得の扱いがあるので、代金を決める前に確かめておきます。
造作の代金は、税金の上でも「売り上げ」として扱われることがあります。国税庁の説明では、事業者が事業で使っていた機械や備品を売ることは、消費税がかかる取引に含まれます。消費税を納める事業者(課税事業者)なら、代金に消費税を含めて考えます。
一方、消費税を納めなくてよい事業者(免税事業者)が売る場合、消費税はかかりません。どちらに当たるかは、これまでの申告書で確かめられます。契約書に「税込」「税抜」を書き分けるのは、このためです。
次に所得の扱いです。個人の店なら、事業で使っていた機械などを売った所得は、原則「譲渡所得」です。ただし、取得したときの金額が10万円未満のものなど、少額の設備は事業の所得として扱われると国税庁は説明しています。
会社の店なら、会社の決算の中で処理します。どの区分か、いくらで計算するかは、設備を買った時期や金額で変わります。迷ったら、代金を決める前に所轄の税務署か税理士に「店の造作を売る予定です」と相談してください。
解約の連絡は、次の借り手が決まってから出せばいい?
担当・伊藤
順番は貸主と相談し、見つからない場合の費用も見込んでおきます。
居抜きでいちばん読みにくいのが日程です。次の借り手が見つかるまで解約の連絡を待つと、そのあいだも家賃がかかり続けます。反対に、早めに解約を知らせても、退去日までに次の借り手が決まるとは限りません。どちらの順で進めるかは、貸主や管理会社と相談して決めておきましょう。
相談の前に確かめたいのが、店の契約にある「解約予告」の期限です。退去の何か月前までに知らせるかは契約によって違うので、まず契約書の解約の項目を確かめてください。
また、居抜きにできなければ、契約どおりに原状回復の工事をして返します。内装を取り払う契約のカフェなら、解体と撤去の費用がかかります。この費用は、譲れるか分からないうちから工事業者に見積もりを取っておくと安心です。
造作の代金を当てにせず、工事が要る場合の金額も手元に残しておく。この2本立てなら、どちらに転んでも慌てずに済みます。
譲れたときと、譲れなかったときの両方を。
話が動き出す前に、準備できることを並べます。
- 契約書の解約予告と原状回復の項目を読み返したか
- 居抜きにしてよいか、貸主の返事を記録に残る形でもらったか
- 設備ごとの持ち主(自分・リース会社・貸主)を分けた一覧があるか
- 不具合のある設備を一覧の備考に書いたか
- 原状回復の工事の見積もりを取ったか
- 代金の税金について、税務署か税理士に確かめたか
最初の一歩は、管理会社への一本の連絡です。「閉店を考えているのですが、居抜きで次の方に引き継ぐことはできますか」と聞いてみてください。その答えで、この先の段取りの大半が決まります。
よくある質問
次の借り手を、自分で決めて入れてもいいですか?
承諾なしに入れると、貸主は契約を解除できます。
リース中の機器も、造作として売れますか?
売れません。リース会社のものなので、残りの扱いはそちらに聞いてください。
造作の代金に、消費税はかかりますか?
課税事業者ならかかり、免税事業者ならかかりません。



