出店前の商圏は、どうやって調べればいい?
伊藤 眞子
お店の物件を探していると、家賃や広さに目が向きますよね。その前に、地図で調べられることを書きました。
目次
お客様
家賃も広さもいいのに、ここでお客さんが来てくれるのか分かりません。
開業のご相談で、こうしたお話を伺うことがあります。
店を続けられるかを左右するのは、家賃や広さより、まわりに「来てくれる人」がどれだけいるかです。住まいなら自分が通いやすいかを考えますが、店や事務所はお客さんに通ってもらう側に立ちます。
そこで契約の前に、物件を中心にした地図を描いておくと判断がぶれにくくなります。この記事では、国が無料で公開している地図のツールで、商圏の人口や同業の数を調べる手順をお伝えします。競合の店の見方と、看板の決まりを確かめる先もまとめました。
商圏って、どのくらいの範囲で考えればいいの?
担当・伊藤
毎日寄る店ほど狭く、目的があって来る店ほど広い範囲で考えます。
商圏(しょうけん)とは、そのお店にお客さんが来てくれる地域の広がりのことで、その広さは業種によって大きく変わります。
百科事典などでは、日用品のように毎日買うものを扱う店ほど商圏は狭いと説明されています。反対に、たまにしか買わない高価なものを扱う店ほど、商圏は広くなります。
たとえばパン屋やクリーニング店は、家や駅から歩いて寄れる近さが選ばれる理由になりやすい業種です。一方で、予約して通う美容室や目当ての品がある専門店なら、電車や車で少し遠くから来てもらうことも考えられます。
| 店のタイプ | 身近な例 | 商圏の考え方 |
|---|---|---|
| 毎日使う店 | パン屋、クリーニング店 | 歩いて来られる狭い範囲で考える |
| 目的があって来る店 | 予約制の美容室、専門店 | 電車や車で来る広い範囲も考える |
| 人が通う事務所 | 小さな事務所 | 取引先や働く人の通いやすさを考える |
どのタイプか迷ったら、お客さんが1か月に何回来てくれそうかを考えてみてください。回数が多い店ほど、近くに住む人が頼りになります。
お客様
駅前と、少し住宅街に入った物件で迷っています。パン屋なので、どちらがいいのか…。
担当・伊藤
どちらも捨てがたいですよね。パン屋さんは、歩いて寄れる近さが強みになりやすいんです。
お客様
なるほど。まわりに住む人の数は分かりますか?
担当・伊藤
それぞれの物件から、徒歩10分の範囲を地図に描いて比べてみましょう。
来てくれそうな人の数は、どうやって調べるの?
担当・伊藤
総務省統計局の「jSTAT MAP」で、範囲を描いて人口を数えられます。
正式な名前は「地図で見る統計(jSTAT MAP)」で、統計局は誰でも無料で使えるツールとして紹介しています。ブラウザで開けば、ソフトを入れずに使えます。入口は、国の統計をまとめて公開しているサイト「e-Stat」です。
範囲の描き方は、主に3通りあります。
- 円:物件を中心に、半径を決めて描く
- 到達圏:徒歩や車で何分で行けるかを指定する
- 多角形:線路や川に沿って、自分で線を引く
パン屋なら、徒歩10分の到達圏を描いてみてください。大きな道路や線路で人の流れが切れる場所では、円よりも到達圏や多角形のほうが実際の商圏に近くなります。
描いた範囲の人口や世帯数は、e-Statのアカウントが無くても地図の上で集計できます。一方で、年齢別人口や世帯の内訳を表計算ソフトのファイルにまとめる「リッチレポート」は、ログインが必要です。アカウントはe-Statの画面から作れます。
注意点が2つあります。ログインせずに使うと、描いた範囲は保存されず、30分操作しないと終了します。また、リッチレポートの数字は細かい地域の統計を面積で割り振った計算なので、目安として扱ってください。
どんな人が住んでいるかまで、分かるの?
担当・伊藤
国勢調査の数字で、年齢ごとの人口や1人暮らしの世帯の多さが分かります。
国勢調査は、5年ごとに日本に住むすべての人と世帯を調べる国の調査です。範囲の人口を見るときの土台になります。
まず全国の様子です。2025年の国勢調査では、1人暮らしの世帯が一般世帯(病院や福祉施設などに入っている人を除く)の4割を超えました。2020年の調査では38.0%だったので、5年で3ポイント以上増えています。家族の形ごとの割合は次のとおりです。
ただ、この割合は地域によってかなり違うので、描いた範囲の数字で見てください。たとえば定食屋の場合、商圏に1人暮らしの若い人が多ければ、1人で入りやすい席や持ち帰りが合うかもしれません。子育て世帯が多い地域なら、ベビーカーで入れる広さが選ばれる理由になります。
なお、地図のツールで使われる国勢調査は、最新の調査結果がまだ入っていないことがあります。集計の画面やレポートに書かれた調査の年を確かめてから、使ってください。
近くに同じ業種の店が多いと、不利になるの?
担当・伊藤
数だけで決めず、統計で見当をつけてから歩いて確かめます。
同じ業種の店の数は、経済センサス(国内の事業所や会社の数、業種などを調べる国の調査)で見当をつけられます。jSTAT MAPでは、この数字も描いた範囲で集計できます。
たとえば美容室なら、商圏の中に同業の事業所がどのくらいあるかを先に見ておきます。人口のわりに同業が多い地域か、少ない地域かの手がかりになります。
ただし、統計は調べた時点の数字で、その後に開いた店や閉じた店は入っていません。どこまで細かい業種で数えられるかも、データによって違います。そのため統計は「おおよその数」をつかむために使い、実際の様子は自分の足で確かめます。
歩いて確かめるときは、地図のアプリで店の場所を一覧にしてから出かけると、回る順番を決めやすくなります。見ておきたいのは、次の4つです。
- 数と業態:同じ業種でも、低価格の店か専門店かで客層が分かれる
- 価格帯:店先のメニューや料金表で、主な価格を書き留める
- 混む時間:平日の昼と夜、週末で、席の埋まり方を見比べる
- 店の様子:看板の目立ち方や、入口の入りやすさ
たとえばカフェの場合、近くに同じようなカフェが3軒あるとします。3軒とも持ち帰り中心なら、ゆっくり座れる店には入り込む余地があるかもしれません。数だけで「多すぎる」と決めず、中身の違いを見てください。
お客様
候補の駅のまわりが、美容室だらけで…。やめたほうがいいでしょうか。
担当・伊藤
数を見ると不安になりますよね。ただ、低価格の店か専門店かで、客層は分かれるんです。
お客様
少し気が楽になりました。何を見に行けばいいですか?
担当・伊藤
近くのお店を回って、店先の料金表で価格を書き留めてみてください。
看板は、好きな大きさで出していいの?
担当・伊藤
自治体ごとの条例で決まりがあるので、契約の前に確かめます。
看板には、屋外広告物法と、自治体ごとの屋外広告物条例という決まりがあります。住まいでは気にしませんが、店では「ここに店がある」と知らせる大事な道具です。
条例は、都道府県や政令指定都市、中核市などが定めます。看板を出せない地域や許可を取れば出せる地域、大きさや高さ・色の基準は、自治体によって違います。自分の店の看板は、一定の基準の範囲なら許可が要らないとする仕組みもあります。
確かめる先は、物件がある自治体の屋外広告物の担当窓口です。物件の住所と、出したい看板の大きさや場所を伝えて、次のように聞くと話が早く進みます。
「この住所で、壁から突き出す看板を出すには許可が要りますか。」
また、道路の上に突き出す看板は、道路を管理する国や自治体の許可が別に要ることもあります。建物のどこに看板を出してよいかは、契約の前に貸主や管理会社に聞いておきましょう。
家賃を見る前に、地図に円を一つ。
物件を見に行く前に、地図に円を一つ描いてみてください。住む人の年齢と世帯、同業の数が分かるだけで、内見で見るべき点がはっきりします。統計で範囲を描き、足で確かめ、看板の決まりを聞く。この順番なら、家賃だけで決めずに済みます。
よくある質問
jSTAT MAPは、お金がかかりますか?
総務省統計局が、誰でも無料で使えるツールとして紹介しています。
アカウントを作らないと使えませんか?
範囲を描いて集計するだけなら要りません。リッチレポートを使うときは、ログインが必要です。
統計の数字は、そのまま信じていいですか?
調べた時点の数字なので、その後の開店や閉店は入っていません。様子は歩いて確かめてください。



